2012年11月26日月曜日

「ファーゴ」

「ファーゴ」(1996年アメリカ)
言わずと知れたコーエン兄弟の代表作のひとつ。前作の「ビッグ・リボウスキ」に続き今作も「誘拐」をモチーフにしたもので、冒頭「This is True Story.」から始まります。これがこの映画の最大の演出で、この一文で観客の脳裏に現実を意識させます。これにより徐々に起こる事件の狂気さをより一層感じてしまう、言わばコーエン兄弟のマジックにかかってしまいます。
真っ白な雪景色に真っ赤な鮮血、無口な大男とおしゃべりな小男、子供を授かった名刑事と子供を放置して逃亡する男…コントラストをはっきりさせて描かれる人物やシーン描写に、すべてが計算された撮影。
ここまで完璧な映画を作り出せる監督はコーエン兄弟以外にいるのでしょうか。
フランシス・マクドーマンド(刑事)、ウィリアム・H・メイシー(夫)、スティーヴ・ブシェミ(小男)…俳優陣の演技力にも申し分無いというよりリアルそのものです。
本当にお薦めの映画です、ぜひ。




「バス男」

「バス男」(2004年アメリカ)
本当にこの邦題ほどひどいものは無いと思います。原題は「Napoleon Dynamite」で「バス男」は当時日本で流行した「電車男」に肖って付けたそうです。バスは交通手段として使用しているだけで特に重要でもなんでもありません(むしろ主人公は自転車の方がよく乗っている…笑)
この映画はアメリカのミニシアターで始まり、口コミで広がり全米のヒット作となりました。決して「電車男」のパロディ映画でもなんでもなくとても面白い作品です。シーンの色使いがとても上手で、それは序盤の配給会社の紹介シーンでよくわかります。シュールな笑いとテンポのいいストーリーで飽きることなく、こんなお洒落なオタク映画があるのか?!と感動しました。主人公のジョン・ヘダーの演技なのか素なのかわからない程の表現力も注目です。


「ブラック会社に勤めてるんだが、もう俺は限界かもしれない」

「ブラック会社に勤めてるんだが、もう俺は限界かもしれない」
私も来年度からブラックと呼ばれている企業で働くので丁度いいと思い鑑賞しました。
わりと期待してみただけにかなりがっかりした映画でした。今年観た映画ではかなり下位になります。昨年就職活動をしていた際、ブラックという言葉が大嫌いでした。「その企業ブラックだからやめとけ」など周りから言われたりもします。人それぞれ何に価値を見出すかは違う訳で、人によってブラックの定義は異なるはずです。
今作では中卒ニートが主人公の設定で、この場合のブラックの定義は何かを考えた時…それはきっと人に必要とされないことだと思うのです。しかしこの主人公は序盤から重要な仕事を与えられ、さらにはリーダーに認められ「どこがブラック?」と思ってしまいました。
監督は「キサラギ」で高評価を受けた佐藤祐市です。


2012年11月19日月曜日

「エヴァンゲリオン新劇場版:Q」

公開2日目に今最も話題の映画「エヴァンゲリオン新劇場版:Q」を観てきました。感想を一言で言えば【複雑】で、理解に苦しみます。そもそもヱヴァンゲリヲンは諸説いろいろあり、卒業研究にでも成り得そうな量の解説があるみたいなので、その辺りはマニアの人達に任せるとします。
理解ができなかったのでこの映画はハズレだったかというとそうでもなく、映像美、音響に関してだけでも楽しめますし、何よりこの映画をみた!という事実だけで一つの話のネタになります。上司がエヴァ好きなら飲みにも行けますし、友達と討論してみるのも楽しいかと。
エヴァンゲリヲンはビジネスモデルとしても魅力的で、あらゆる企業のタイアップや宣伝方法なども勉強になります。
エヴァをラーメンで例えると次郎系に属し、いざ食べに行くともういいやと思ってしまうのですが、なぜかこれがまた食べたくなる中毒性があります。現在、次回作は映画館で見る気は全く無くレンタルで見ようと思っていますが、実際には映画館に足を運ぶ自分がいると思います。
この中毒性こそがエヴァンゲリヲンの最大の魅力で、それを創りだす庵野秀明監督の才能ではないでしょうか。
個人的にはレイよりアスカ派なので、今回はアスカが大活躍だったので満足です。


「ヒトラーの贋札」

「ベルンハルト作戦」…第二次世界大戦のさなか、ドイツ政府がイギリスの経済撹乱を狙い画策した史上最大の紙幣贋造事件。この偽札作りの第一人者であるユダヤ人印刷工アドルフ・ブルガーの証言によって制作された映画「ヒトラーの贋札」(2007年)を観ました。
キャッチコピーは『完璧な贋札。それは俺たちの命を救うのか。それとも奪うのか-』。囚われたユダヤ人がナチの令により、ポンド紙幣の偽造制作に働き延命します。
深く、重いテーマの映画です。しかしグロ映像はそこまで無いので戦争の兵器ではなく頭脳戦、あまり知られていない事実を知るためにもぜひ観ておくべき映画だと思います。戦争を経験していない我々世代は、一層重く受け止めなければならないテーマです。


「眉山」

松嶋菜々子主演、「眉山」観ました。
10月に長崎へ観光に行った際、眉山をドライブしたのでその影響から。
蓋を開けて知ったのですが、今作の眉山は徳島県にあり、長崎の眉山とは関係がないということ。そもそも私が行った山は(まゆやま)であるとwikiで知りました…お恥ずかしい。

きっかけはとにかくとして、この映画「眉山」は母の愛をテーマにしたヒューマン映画です。犬童一心監督、原作はさだまさしです。犬童監督は「ジョゼと虎と魚たち」でもそうだった様に本当に人物描写が上手です。松嶋菜々子と松本信子の演技がその特徴を顕著に表現しています。特に松本信子の唇の動きから指先まで全身全霊をかけた演技は「素晴らしい」以上の言葉が思いつきません。
今作の最大の目玉は徳島県名物阿波おどりです。私はそれを実際に見に行ったことはありませんが、映画とは思えないほど壮大なスケール、しかしリアリティを追求していて見るものを虜にします。

音楽は「ごくせん」で有名な大島ミチル、エンディングのレミオロメン「蛍」もいい曲です。

2012年11月5日月曜日

「チャーリー・ウィルソンズ・ウォー」

マイク・ニコルズ監督「チャーリー・ウィルソンズ・ウォー」。実在の冷戦終結の功労者チャールズ・ウィルソン、彼がソ連の進行に抵抗するアフガニスタンを援助する模様を描いています。トム・ハンクスがチャーリーという人物像を表現しています。このチャーリーの特徴として切り替えの速さがあります。酒と女と仕事などの転換が映画の随所で見て取れます。特にガス(フィリップ・シーモア・ホフマン)との対話のシーンは秀逸。関係無いけどチャーリーが女好きだけあり、ジュリア・ロバーツやエイミー・アダムスなどの美女がかなり出ています。設定がコメディチックな様でストーリーは真面目そのもの。

ここから勉強がてら歴史の整理。
なぜアフガニスタンをソ連もアメリカも狙うのか。それはアフガニスタンに眠る豊富な地下資源(レアメタル)とホルムズ海峡のため。ソ連はアフガニスタンの隣国なので、喉から手が出る程欲しいところ。
ソ連とアフガンの共産主義に対し、「ムジャヒディン」(信仰のための戦士)を支援したのがアメリカです。
さらにアメリカCIAは世界中から急進派のイスラム教徒たちをパキスタンに呼び集め、アフガンのムジャヒディンと共に対ソ戦を戦わせます。
この何万人もの若きイスラム教徒の中に、オサマ・ビンラディンもいました。

…とまで言えば映画の最後のフレーズの意味がわかるはずです。
深く勉強になる映画でした。



「クヒオ大佐」

「クヒオ大佐」を観ました。監督は「腑抜けども、悲しみの愛を見せろ」で注目を浴びた吉田大八です。
とても斬新な始まりをする映画で、吉田監督のカリスマ性光る作品だと思います。

事前知識を持たない状態で観たので、なんの話かと思ったらいい意味でくだらない話でした。
個人的に「悪人」を見てからハマッてしまった満島ひかり。そして今作も彼女の演技が素晴らしすぎる。「愛のむきだし」にて「もはや狂気とも呼べる領域に達した満島の芝居にすべてが圧倒された」と園監督に言わしめただけあります。彼女は今後も要注目です。
またホステス役の中村優子、役に対する熱意に脱帽です。実際に映画の撮影前、女優であることを伏せ、銀座のクラブで働いていたのだそう。実際に指名も受けていたそうなので驚きです。
そして何より堺雅人がクヒオ大佐を演じたことが、この映画の面白さを際立てています。


「幸せへのキセキ」

キャメロン・クロウ監督「幸せへのキセキ」鑑賞。
マット・デイモンが主演、スカーレット・ヨハンソン、エル・ファニングと私が大好きな俳優達。さらに「あの頃ペニー・レインと」で主役を務めたパトリック・フュジットも出ています。キャメロン・クロウの推薦かな。
まず突っ込むべきはこの邦題です。日本人が大好きな日本語トップ10の内の2つ言っても過言ではない、“幸せ”と“キセキ”のワードがドッキング。原題の「We bought a Zoo」だとなぜ駄目なのか配給会社に説明して頂きたいところ。こんな安っぽい邦題のせいでかなり損していると思います。
ストーリーは感動の実話を基に作られていますが、…普通です。特筆することは無く、この映画は俳優陣の演技を見るため。動物達をはるかに凌ぐエル・ファニングの可愛さは必見です(←ただ単に自分が大好きなだけ)
個人的に気に入ったのがサントラで、先日観た「アルゴ」も手掛けたロドリゴ・プリエトが担当。また作中ところどころ流れるアコースティックな曲達がとても心地良かったです。今度サントラ借りよう。


「ビッグフィッシュ」

ティム・バートン監督「ビッグフィッシュ」。
意外にもユアン・マクレガー作品はこれが初でした。タイトルのビッグフィッシュは大きな魚という意味の他にホラ話という意味があります。父エドワード・ブルーム(アルバート・フィニー)と、父の御伽話に嫌気がさしている息子ウィル・ブルーム(ビリー・クラダップ)との和解と愛がテーマです。しかし僕が感じた事は別にあります。
“話を盛る”- 言い換えれば脚色はなぜ起こるのか。それは自分の記憶が事実より美化され、その素晴らしい思い出を相手と共有したいと思うからだと思います。例えばエドワードの青年期(ユアン・マクレガー)にサンドラ(アリソン・ローマン)と結ばれるシーンがあります。何万本もの水仙の花で囲まれたとても素敵なシーンですが、それが事実かどうか、それは重要では無いのです。大切なのはそれほど素晴らしい思い出だったという事。それは真実であり、相手に伝えたいと思うから、エドワードは誇らしげに楽しそうに語ります。これが「話に尾ひれをつける」=「ビッグフィッシュ」の真の意味では無いでしょうか。

音楽はティム・バートンの常連、ダニー・エルフマンが担当。